食事をするとき、その器が素敵だと美味しさも倍増するような…とってもしあわせな気持ちになりませんか。目でみてたのしめる、味わってたのしめる、そんな豊かな「いただきます」の時間を堪能できるお店をご紹介します。第3回目は、阿佐ヶ谷にある「器とカフェ ひねもすのたり 」にお邪魔してきました。
「出会い」を生む隠れ家
阿佐ヶ谷駅から徒歩2分。雰囲気のあるちいさな看板が今回の目的地の目印。「器とカフェ ひねもすのたり」です。
ひっそりとした階段をのぼりきると、愛らしい楚々としたお花とオブジェが出迎えてくれました。
扉を開けると、日の光とやさしい灯りがあふれる開放的な空間が広がっていました。内装を手がけられたのは人気建築家の堀部安嗣さん。堀部さんの建築をひと目見たい、と訪れる人も多いそう。
そしてこちらが、カフェをひとりで切り盛りしている、店主の松原幸子さんです。「わたしはどうも、人の手が生み出すものが好きみたいなんです」と語る松原さん。店内には松原さんセレクションの逸品があちらこちらに散りばめられていました。
民芸品や工芸品、刺し子の布、ガラス作家さんの花器にもなるオブジェなど目を惹くものがたくさん。骨董市や旅先、展示会などさまざまな場所で出会ったものたちだそう。
ズラリと並べられた作家さんの器やアクセサリーは、購入も可能です。
松原さんは、20代の頃から「自分のお店を開く」という夢を持ち続け、勉強も兼ねて、マーケティングのお仕事やレストランと雑貨を経営するお店に勤められていたそう。念願叶ってカフェをオープンできたのは48歳のとき。
「凝った料理を食べてほしい、ということではなくて。食の場を通して、人やものとの出会いをのんびりとたのしんでほしい、と思ってお店をはじめたんです」。店名の『ひねもすのたり』は、“1日中、ゆったり”という意味。 「本当にただのんびりされてしまうと、経営上は問題があるんだなってあとから気づいたんですけどね(笑)」。
ひねもすのたりは今年で13年目。この場所はいつの間にか、美味しいごはんや器好きな人、堀部さんファンや、作家さんファンたちがたくさん出会い、集まる場所になっていました。
「旬」を、いただきます
「そろそろお食事をいかがですか?」と松原さん。それではこのへんで、今回もお料理をいただきたいと思います。
オーダーしたのは、オープン当初から人気だという「おそうざいセット」。日替わりであり、また、店内を訪れたタイミング次第でも内容が変わるというユニークなメニューです。一汁三菜に野菜のお惣菜、お漬物、雑穀ご飯とお味噌汁がついてきます。
「身体にやさしそうね、とよく言われるけれど、わたしはそう思ってつくっているわけではないんですよ。家で主人や子どものためにつくったお料理で『美味しい』と言われたもの、つまりは家庭料理をつくっているだけなんです」と松原さん。
煮物に入ったお野菜は、どれも皮つき。素材の味や食感をしっかりたのしむことができます。
お味噌汁の具材には、佐渡の郷土料理に代表される“いごねり”が。お味噌汁でいただくのははじめてでしたが、海藻の風味がお味噌と合っていて、ホッとする味わいでした。
美しい彩りのお料理たち。松原さんが大切にしているのは「季節感」だと言います。「日本の良さは、季節でさまざまな食事をたのしめるところ。今日は里芋に、フキノトウの味噌をかけています」。
「フキノトウを知らない人に、『これは何ですか?』と聞かれてコミュニケーションが生まれたり。そういうのが、なんか心地いいんですよね」。
旬の金柑を使用したヨーグルトのデザートも、さっぱりしたあと味で美味しかったです。一緒にいただいたのは「黒炒り玄米茶」。香ばしさとほどよい酸味で、コーヒーのような味わいでした。ノンカフェインもうれしいポイント。
四季を引き立てる器選び
すべてのお料理に異なる質感やデザインのお皿が使用されていましたが、松原さんの器選びのポイントはどこにあるのでしょう。
「わたしはお料理同様に、季節感を大切にしています。冬から春の間は、どちらかというと土ものを、逆に夏はなるべく磁器やガラスの素材を使うなど、器でも季節感を感じてたのしんでいただけるように選んでいるんですよ」。
「それから、なるべく手に持つ器は、軽くて使いやすいものを」。たしかに、どの器も手にしっくりくるほどよい重みと、心地よい触り心地のものばかりでした。
店内に並ぶ器は、人気作家さんの作品が多数取りそろえられていますが、器の横に名前などは掲げられていません。
「作家さんやブランド名ではなく、直感で自分の好きなものを選んで使ってほしいですね。器って、誰かに見せながら使い続けるものではないから、使うたびに自分がうれしい気持ちになるほうが、絶対に毎日がたのしいでしょう」。
より豊かに毎日を過ごすための極意を聞くことができました。
この街と、ともに
ひねもすのたりでは、通常のカフェ営業のほかに、展示会や音楽ライブ、能楽講座など、多数のイベントが開催されています。「この場所があったことで出会えた人、叶えられたことがたくさんあります。わたしはここで、永くお店を続けていくことが目標なんです」。
「お店をオープンしたときに、ご近所にある老舗和菓子屋『うさぎや』さんがお祝いに来てくださり、『うちは50年やっている。大変なことも多いけれど、続けていればいいことがきっとあるから、とにかく続けなさい』と言ってくださったんです」。
つねに行列を生む人気店のあたたかい言葉を励みにしているそう。
「たしかにこれまで大変なことがたくさんあったけれど、続けた分だけ出会いがあるし、うれしいことは、よりたくさんありました。今日の取材もそう」。
「『行ったらなんかたのしいんだよね』『あのお店があるから阿佐ヶ谷に行こう』と言われるお店になりたいし、そんなお店を続けていきたいです。この場所に、阿佐ヶ谷に感謝をしているので、これからは貢献していきたい。ぜひみなさんも遊びに来てください」。
旬をたのしめる美味しいごはんと、さまざまな手づくりの器、作品たちに囲まれて。さらには、気さくな松原さんとのお話に花を咲かせて。たっぷり心地よく「ひねもすのたり」できるお店でした。訪れた際には、うさぎやさんとのはしごもおすすめです。
さて、次回はどんな素敵な器とごちそうに出会えるのでしょうか。
乞うご期待。