9月17日からの2週間、川尻さんの個展がここかくしちで開催されるとのこと。
ギャラリースペースに並ぶ器やインテリアも実にさまざまなテイストの雰囲気をまとっていました。
まるで水彩画のような淡い色味が美しいカップと時計は、大山茂樹さん 智子さんで作陶されている、おおやま工房の作品。
北欧のようなモチーフ使いの上品なお皿は、陶芸作家 岡田崇人さんの作品です。
カウンター横に飾られた独特の存在感を放つ絵は、“図案家”として活躍されたデザイナー 青木清さんが描かれたもの。青木さんはかくしちの常連で、とくに晩年は足繁く通われたそう。
「ある日、カウンターで青木さんにこう言われたんです。『喫茶店は文化でなければいけないよ。偶然ではあるけれどこれだけの人が集まって、隣の人の声が聞こえたり、お話できる空間なら、そこから何か文化的な匂いがしなきゃ。かくしちはそういうお店になりなさい』」。
「難しいテーマではあるけれど、僕にも妻にもこのことばがとても響きました。作家さんの手で懸命につくられた作品や器は、訪れてくださる人の心にぬくもりを与えてくれたり、ときには会話のきっかけにもなると思うんです。みんながほっとくつろげて、そこから何かが生まれるような時間を過ごしていただけたらいいなと。実際にここで出会った方がお友達になられたり、一緒にコラボでお仕事をされたり、ということも多いんですよ」。
四季を運ぶ中庭
かくしちにはその願いの通り、落ち着ける中にも会話が自然と生まれそうな、どこか温かな雰囲気があふれているように感じました。「その秘密は中庭にあるかもしれませんね」と小林さん。
「フルリニューアルの際に、建築家の方に提案されて感激したのがこの中庭スペースです。どの席からも眺められて、同時に自然光も取り込める。お客さんからも好評ですし、僕らスタッフも中庭でうつろう四季には癒されているんですよ」。
前の建物のときからあった「トサミズキ」を中心に、植木職人の方と相談してつくりあげたそう。巣箱は小林さんの息子さんがつくられ、今年はシジュウカラが巣づくりをしたと言います。「『鳥さんを見にきました』とお店を訪れてくださる方もいましたね。心を和ませてくれるちいさな自然のサイクルが、ふとした会話を生むきっかけになっているのかもしれません。大満足スポットです」。
さて、それではこのへんで。今日はこの中庭を眺めながらお食事をいただくことにしましょう。
柔らかな日差しに包まれて「いただきます」
ドリンク、フード、ケーキ…とバリエーション豊富なメニュー。「ありがたいことに、母のお店だった頃からの常連さんが今もたくさん訪れてくださるんです。みなさんそれぞれ思い入れのあるメニューがあり、たのしみにいらっしゃるので、おやきやあめゆなど、いくつかのメニューは引き継いで残しているんですよ」。
今回はそんな、長年愛されてきたメニューの中からいくつかをオーダーすることにしました。
まず、運ばれてきたのは「季節のおやきセット」です。おやきが乗った角皿は、陶芸作家・谷津田義則さんの作品。お盆は、漆作品を手がけられる輪島キリモトさん、スープカップは川尻琢也さんに特別につくっていただいたもの。大人っぽいシックな組み合わせが、お料理を引き立てていました。
もちもちのおやきの中身は、菜の花のおひたしと、品のある甘さのかぼちゃ餡。添えられたにんじんサラダと、朝採りとうもろこしのスープ、とバランスが抜群でさらにどれも絶品でした。