歴史を感じる蔵の街・川越。美しい街並みと、温かい人柄に触れながら、おいしいものを食べ歩くぶらり川越散歩を満喫してきました。今回注目するのは“発酵”。250年続く「松本醤油商店」と、川越に酒蔵を開いて11年の「鏡山酒造」にお邪魔してきました。
macaroni編集部
川越で“発酵”をめぐる旅
発酵というと、どのようなものを思い浮かべますか?乳酸菌からできるチーズやヨーグルト、納豆菌で作る納豆だけでなく、酵母を使ったパンも発酵商品のひとつです。
発酵を利用して作られるものの中から、今回は「醤油」と「日本酒」をピックアップ!川越にある醤油蔵と酒蔵を見学させていただきました。
麹という共通の材料から作られる醤油と日本酒。そこには不思議な繋がりとロマンあふれる物語がありました。
創業254年。受け継がれる醤油造り
まず伺ったのが「松本醤油商店」。天保元年ころに作られた木造の建屋は、188年という時の重みを感じます。
建屋の外にも醤油独特のあの香りが漂い、ずっと香りを楽しんでいたくなるほどです!
「松本醤油商店」専務の松本さんに醤油蔵を案内していただくことに。
醤油づくりは大豆を蒸すことから始まります。入り口にあるこちらの大きな缶は、大豆を蒸す専用の機械で、一度に600kg以上の大豆を蒸せるそう。埼玉県産の大豆を使って、地産地消にこだわっています。
奥行きがあり閉鎖された空間は「麹室(こうじむろ)」と呼ばれる、醤油づくりに欠かせない部屋。埼玉県産の炒った小麦と、大豆を蒸したものを入れ、麹菌をまぶして丸3日間寝かせます。
温度や湿度は機械で管理されていますが、最後は人の勘が頼り。夜中でも麹の状態を見に麹室に入るそうです。
歴史ある蔵のなかには麹菌や酵母菌、乳酸菌といったさまざまな菌が生息しています。温度管理を間違えてしまうだけで納豆菌が繁殖してしまい、醤油が作れなくなってしまうこともあるんだそうです。菌との共存が大切なんですね。
木造の醤油蔵に棲む、見えない功労者
奥に進むと大きな木の桶がいくつも並んでいます。醤油の香りも、先ほどよりずっと濃くなってきました。
杉でできた桶はとても深く、その大きさに圧倒されます。
中には、先ほど麹室で作った麹と食塩水を混ぜた「もろみ」が入っています。
その昔、川越であった大火や戦争、地震など数々の苦難を免れて残った大切な大切な杉桶たち。これらの杉桶が醤油づくりを守っているんですね。
桶だけでなく、壁や天井、梁にいたるまで、木でできた蔵の中には、「蔵酵母」というその蔵独自の酵母が棲みついていて、その酵母が醤油の味に大きく影響を与えているんだそうです。
もろみを1年ほど寝かせると、こんなに色が濃く、どろっとした状態に変化します。
「温かい夏に来れば、もろみが歌を歌うのが聴けますよ!」と松本さん。ガスが抜けるときにぷちぷちと音が鳴るそうです。“もろみが歌を歌う”という表現がとてもロマンティックですよね!次はもろみの歌を聴きに、かならず夏に来ます!
桶のなかにも酵母が棲んでいるので、その酵母がいい働きをして「松本醤油ならではの醤油」ができあがります。見えないながら、酵母や菌はかなりの功労者ですね。
杉桶は釘を一本も使わず、木だけで作られているそう。松本さんが中学生のころ、杉桶を束ねている“たが”が外れて、蔵の中でもろみの大洪水が起こったそうです。