ハワイのヨガマガジン「Yoga HAWAII Magazine」人気記事をヨガジャーナルオンラインが独占配信! 軍服に身を包み、人々のために戦うハワイの兵士たち。彼らの中には、うつ、トラウマ、PTSD…様々なトラブルを抱えている人もいる。そんな兵士たちを救う「ヨガ」が、今注目を集めている。
Yoga HAWAII Magazine
バランスと平穏をもたらすヨガを軍の訓練に取り入れたいと考えているヨガ実践者は多い。
「軍隊ヨガ」と聞くと、鬼軍曹にどなられながら練習する厳しいブートキャンプのようなヴィンヤサフローを想像するかもしれない。だが、そのような「軍隊式」のヨガは存在しない。ヨガの型式うんぬんよりも、軍のコミュニティのニーズに合わせた練習が「軍隊ヨガ」と呼ばれている。これは軍コミュニティで認定され訓練を受けたヨガインストラクターが行う、現役・退役軍人の身体的、感情的、心理的な回復やバランスを図るためのヨガセラピーだ。
ヨガは、サンスクリット語のユジュ(結合する、結び付けるという意味)が語源となっている。呼吸と精神と身体を一つにし、心の平穏をもたらすヨガの練習は、軍に携わる者たちに大きな効果をもたらしている。
軍での環境は、よく混沌や動的と表現される。そのためバランスと平穏をもたらすヨガを軍の訓練に取り入れたいと考えているヨガ実践者は多い。
ここ数年、ハワイは成長著しい軍隊ヨガの中心をなしている。歴史をさかのぼると、20世紀前半までハワイでの軍設備は最小限に留められていた。だが1941年に真珠湾攻撃を受け、アメリカが太平洋の島々から攻撃してくる日本軍に反撃すべく第二次世界大戦に参戦すると、島の状況は一変した。
今日ハワイは陸軍、海軍、海兵隊、空軍、沿岸警備隊を擁するアメリカ太平洋軍(USPACOM)の拠点として、太平洋全域と沿岸の島々で軍務を行っている。また、第二次世界大戦以降、海兵隊員、兵士、水兵、空軍兵、沿岸警備隊員はハワイから世界各地に配備されている。
当然のことながら最近のイラク、アフガニスタンでの戦争ではアメリカ兵とその家族には重荷が課せられた。軍服に身を包み、私たちの自由のために戦う勇敢な男性、女性兵士たちは、心身の傷に加えて、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や外傷性脳損傷(TBI)、軍内性的トラウマ(MST)などの内面の戦いにも苦しんでいることが多い。現役・退役軍人共に、日々これらの問題と戦いながら、「普通」の民間人としての暮らしを送ろうと努力している。
現役・退役軍人のPTSDや不安、うつ症状への対処としては、一時的に記憶やトラウマを薄れさせるために瞑想を実践することが多い。だが現実は、恐怖が完全に消えることはない。そのような苦痛と共に生きる人々に、ヨガは健康とバランスを取り戻すための健全な手段として希望を与えている。事実、ヨガが従来の薬に代わる健康的な対処法として、軍人たちに様々な恩恵をもたらすことが研究でも明らかになっている。
Photo by Eric Rosso
ヨガを練習する軍人たちの多くは、対処法を薬からヨガマットに変えてから、大きな変化を感じている。ヨガで平穏な気持ちになれるだけでなく、心身のストレスからも解放され、身体的、心理的な苦痛が訪れても向き合えるようになった。ある意味ヨガは、兵士たちが戦いのための訓練で得た「平静さを保って分析し、集中力を保ち、難局を解決する」というスキルを磨く練習でもある。
ヨガで意識や気づきを高まると、身体や心とより強く繋がるようになり、心身を制御する感覚が養われる。さらに、自分の身体や思考を制御する練習は自信や安心を生み出す。PTSDとは、長期にわたって、あるいは突然に危険や脅威を感じる経験に晒されることで起こる不安障害をいう。ストレスに対し交感神経と副交感神経の反応が起こり、神経系がフリーズする状態だ。この障害を治療する処方薬とは異なり、ヨガの鎮静効果はその神経系のフリーズ状態を解くと言われている。ヨガで行うストレッチと深い呼吸が、凍りついた神経系をほぐす効果を生み出すのだ。
複合的な理学療法として現役兵士たちに数ヶ月間ヨガを教えていると、呼吸法、瞑想、意識的な動きを取り入れた定期的なヨガ練習が、どれほど兵士たちに精神的なリラクゼーションをもたらすかがよくわかります。
ヨガがもたらすもう一つの健康的な成果は、軍人同士の練習で生まれるコミュニティだ。ヨガを通じて他の退役軍人や民間人のグループとの絆や密接な関係を築くことができるのだ。
「ヨガクラスは「本当のティミー」でいられる数少ない場所なんだ」とティモシー・トンプソン軍曹は言う。
「練習自体や、ヨガの本質とか、一緒に練習をする人たちから感じるエネルギーとか活気とか……うまく言えないが、とにかくヨガをしていると幸せな気分になるんだよ。練習でのみんなの笑顔や、温かい挨拶とか、アーサナがやっと上手くできた時の嬉しさのせいかもしれない」とトンプソンは続けた。
互いに理解し、励まし合える他の退役軍人や民間人たちと心地良い繋がりを育み、体験を分かち合えることが、この退役軍曹の癒しの旅に大きなサポートをもたらしている。
トンプソンは、ヨガの「すべてのものは平等」という精神にも共感している。「ただ幸せを感じられるんだ」と彼は言う。ハワイの軍人たちにとって幸運なことに、軍はヨガが心身の回復に効果があることを認めているため、理学療法プログラムの一環としてヨガの動きを取り入れたカリキュラムを組んでいる。
「複合的な理学療法として現役兵士たちに数ヶ月間ヨガを教えていると、呼吸法、瞑想、意識的な動きを取り入れた定期的なヨガ練習が、どれほど兵士たちに精神的なリラクゼーションをもたらすかがよくわかります」と話すのはWarriors At Ease と “Vetoga”のインストラクター、クリスティーナ・フィンリーだ。彼女自身も陸軍の退役軍人で、ハワイでヨガを教えている。「一人一人の進歩に本当に驚かされます」とも言っている。
ヨガは、問題から目を背けるのではなく、むしろ向きあって、克服するように軍人たちを後押ししながら、希望をもたらしている。錠剤や薬に頼るよりも、はるかに有意義で健全な対処法だ。私は民間人のヨガティーチャーとして、国のために尽くす軍人たちにヨガを紹介し、教え続け、彼らがヨガの恩恵に気づけるように導くことで恩返しができればと思っている。
Photo by Eric Rosso
本記事に含まれる意見は、あくまでも登場する個人によるものであり、軍部やアメリカ政府の見解ではない。軍関係者向けのヨガに関する情報は、これらのハワイの組織に連絡してほしい。
Vet Center Honolulu and West Oahu(ホノルル・ウェストオアフ退役軍人センター)
Warriors At Ease(ウォリアーズ・アットイーズ) (WAE)
Team Red White and Blue Honolulu(チーム・レッドホワイト・アンド・ブルーホノルル) (Team RWB Honolulu)
Meghan’s Foundation(メーガン基金)
この記事を書いたのは…アレクシス・ザーボさん
アレクシスは10年間熱心にヨガを練習し、8年間指導している。ヨガアライアンス200RYTとWarriors At Ease (WAE)の認定ティーチャーである。
ヨガハワイマガジン/「MILITARY yoga」