養生ってなに?
「養生」と聞くと、古くさいような、おばあちゃんの健康法のように思えるかもしれません。でも、仕事に遊びに家事に、なにかと忙しいアラサー世代の女性にとって、とても大切なことなんです。
たとえば、ある朝起きてのどが痛かったとします。そこでのどの痛み止めを飲んだりしますが、薬を飲んだからといって、「たちまち痛みがなくなって元通り元気になる!」とはいきませんよね。ほとんどの人はしばらくのどが痛い状態が続いて、咳が出たり熱が出たり、悪化していくこともしばしば。そうなると、会社や学校に行くのもしんどいし、パフォーマンスも低下します。
では、日々のどが痛くならないように、帰宅したらうがいをしたり、乾燥しないように気をつけたりしているとどうでしょう。おそらく薬を飲むことも、そのあとの不調もほとんど起こりません。このような「日々健康で元気に生きるための方法」を「養生法」といいます。
養生とは文字どおり「生(せい)を養うこと」です。生を養うといっても、いまいちピンとこないかもしれませんね。簡単に言い換えると、「健康的に日々を送ること」です。この連載では、「中医学」という中国の伝統的な学問(いわゆる中国漢方)に基づいて、季節や症状などに合わせたさまざまな養生法をご紹介していこうと思っています。
今回は、私が提唱している「毎日できる簡単養生5か条」をご紹介します。
毎日できる簡単養生5か条
1.寝起きは温かいものをゆっくり飲む
人間は寝ているときに体温が下がっているので、起床時は一日の中でも体温が低い時間帯です。そのため、起き抜けに冷たいものを摂ってしまうと、体の中から全身が冷やされます。冷えると体は縮こまり、血流も悪くなります。冷えた体を温めるのにエネルギーも消費します。朝起きて冷たいものを摂るということは、一日のスタート時点で、マイナスからのスタートになるわけです。
白湯でもお味噌汁でも温かいものを摂れば、体の中から温まり、体温を高めるためのエネルギーはセーブされ、筋肉も緩み、血流も巡りやすくなります。酸素や栄養が隅々に流れやすくなるので、動きやすくなります。微々たることかもしれませんが、毎日積み重ねると体調に大きな違いとなってあらわれます。
2.食後は足踏み300回。またはかかと上げ
「健康」というのはどの時代でも人々の関心を集めていたようで、江戸時代には貝原益軒が書いた『養生訓』という健康本がとても人気だったそうです。その『養生訓』の中に、「食後に毎度歩行する事、三百歩すべし。おりおり五、六町歩行するは尤(もっとも)よし。」という一節があります。これは、「食後は三百歩歩くとよい。たまに、五六町(550~660メートル)くらい歩くとなおよい」という意味です。なぜ食後に歩くのがよいかというと、「気が巡るから」だと書かれています。
中医学では、「気」というエネルギーが一所にとどまることなく、常に全身をスムーズに巡っているのが健康な状態だと考えています。食後は食べたものを消化するために血液が胃腸に集中します。集中した血液は放っておいてもそのうち全身に分散していきますが、ゆっくりと歩くことで、その分散を助けてあげることができます。また、筋肉の刺激が伝わり、胃腸がより動きやすくもなります。
ただし、食後に激しい運動をするのは消化の妨げになるので、「ゆっくりと」がポイントです。腹ごなしの散歩というのは先人の知恵ですが、そういうものはたとえ科学で証明されていなくても、ちゃんと意味があるものなんだと気づかされます。現在は、食後にゆっくり歩く時間がないことも多いので、せめてその場で足踏みしたり、かかとを上げ下げすることで気を巡らせましょう。
3.気づいたら深呼吸
私たちが毎日健康に生きていくためには、飲食物から生み出されるエネルギーと、大気中にあるエネルギーを体に取り込むことが大切だと中医学では考えています。深呼吸とはまさにこの大気中のエネルギーを体内に充満させることに繋がります。
また、気持ちを安定させたり、内臓の動きをスムーズにするためにも、深い呼吸によるエネルギーの流れがあることが大切です。どんなときでも良いので、気がついたら深呼吸するようにしてみてください。その一瞬でも力が漲(みなぎ)り、気持ちが晴れやかになるはずです。
●深呼吸の方法
①まず大きく息を吐ききります。
②胸を張りながら肩が上がらないように気を付けて鼻から空気を吸い込みます。
ポイント:吸い込んだ空気が背骨を伝って、骨盤内に広がるイメージで深呼吸すると、正しい空気の流れを生み出せます。
4.気づいたら肩回し前後ろ10回ずつ
ここまで読んでいただいた方には、中医学では「体内に滞りがあることを嫌う」というのが、なんとなくおわかりいただけたのではないでしょうか。この肩回しも体内の巡りを良くする手法の一つです。
私たちの腕は実はかなり重いんです。体重50kgの人で腕(腕の付け根から指先まで)1本3kgちょっとあるといわれています。この重い腕を筋肉は常に支えているため、何もしなくても筋肉には負荷がかかっており、血流が悪くなりがちです。
パソコン作業をされる方は特に、長時間固まった姿勢をとっています。首周りの筋肉の凝りをほぐし、血流を改善するために、気づいたら腕を肩から上にあげて重さをとり、筋肉を緩めることが大切です。特に、首から上には大量の酸素とエネルギーを必要とする脳があります。しっかりと働いてもらうためには、常に血流を良くしておく必要があります。
5.湯船に浸かる
中医学では、血は温めるとさらさらとなって流れやすくなり、冷やすとドロドロになって流れにくくなると考えられています。そのため、体を温めると血流が良くなり、細胞の隅々にまで栄養や酸素、潤いが運ばれ、不要物はすっきりと回収され、凝りや浮腫みが解消されます。また適度な発汗は、体内にこもった余分な熱が汗とともに排出されるため、暑さによる寝苦しさやカッカするようなイライラの軽減にもつながります。
ただし、だらだらと汗が流れ出るような長風呂は禁物。発汗しすぎると、汗とともにエネルギーが失われ、疲労が増してしまいます。何事もやりすぎは良くないので、じわっと汗をかく程度がよいでしょう。
櫻井大典(さくらい・だいすけ)
健康意識の高い街・アメリカのサンフランシスコで大学時代を過ごし、心理学を学ぶ。帰国後、イスクラ中医薬研修塾で中医学を学ぶ。ミドリ薬品店長・医薬品登録販売者・国際中医師・日本中医薬研究会会員。